犬の血液検査項目の中で、特に異常を指摘される機会が多いのが一般に「肝臓の数値」と呼ばれる項目です。
「肝臓の数値が上がってしまいました…」
「血液検査で肝臓の数値が高いと指摘され、ショックです…」
こうした声をよく聞きます。
ところで、「肝臓の数値が上がる」というのは具体的に何を示しているのでしょうか?
この記事では「肝臓とは一体何か?」という基本から解説していきます。
肝臓の働き、機能を理解した上で、「数値が上がる」は一体何を示しているのか?を理解することが大切です。
肝臓の働き
肝臓は「体内の生化学工場」に例えられます。肝臓の代表的な働きは以下の通りです。
- 消化腺として「胆汁」を分泌
- 栄養素の代謝
- ホルモンの代謝
- 解毒
- 排泄
- 免疫
- たんぱく質の合成
1.胆汁の生成
胆汁は肝細胞で作らます。
作られた胆汁は胆管という管を通り、胆嚢(たんのう)へ一時的に貯蔵されます。ここで胆汁の水分は吸収され、濃縮されたのち、必要に応じて十二指腸へ排泄されます。
胆汁には脂肪の消化・吸収を助ける胆汁酸が含まれます。胆汁酸はコレステロールを材料に作られます。胆汁酸は脂溶性ビタミン(A・D・E・K)、鉄、カルシウムの吸収にも必須の物質です。
3.栄養素の貯蔵と加工
小腸で吸収された栄養素は一度肝臓に送られ、体内で利用可能な形に加工されます。三大栄養素と呼ばれる糖質・脂質・たんぱく質を例に肝臓での加工と貯蔵について見ていきます。
糖質
糖質は小腸でブドウ糖(グルコース)の形で吸収されたのち、肝臓に特有の「門脈」と呼ばれる特殊な血管を通って肝臓に一度送られます。
ブドウ糖はそのまま肝臓から放出され、体の必要な部位に送られますが、一部はグリコーゲンの形に加工され肝臓に貯蔵されます。
グリコーゲンは肝臓、および筋肉に貯蔵される糖の形です。空腹時に血糖値が下がった際にブドウ糖に変えられ、血液中に放出され全身に供給されます。
脂質
脂質は消化・吸収後、大部分が血液にのって全身の脂肪組織へ送られ、取り込まれます。
食事直後、過剰になったエネルギーはインスリンの作用で肝臓で脂肪酸・コレステロールの合成材料として使用されます。
たんぱく質
食物中のたんぱく質は消化を受け、アミノ酸にまで分解されて小腸から吸収されます。その後、門脈を経て全て肝臓へ取り込まれます。
肝臓は体の必要に応じて、アミノ酸を供給する働きを担っています。
3.代謝(無毒化・排泄)
老廃物、体内で生成されたホルモン、薬など様々な物質は肝臓で分解や抱合を経て無毒化され、排泄されます。
例:
たんぱく質は体内で代謝され、最終的にアンモニアになります。アンモニア自体は体にとって有害な物質であるため、肝臓で「尿素」に変えられ、排泄されます。
4.免疫
肝臓はたんぱく質の一種である「アルブミン」を作ります。アルブミンは毒素と結合して中和する働きがあります。
5.血液凝固作用物質を作る
血液の凝固に欠かせない物質「フィブリノゲン」を作ります。
6.血液量の調節、造血の調節
肝臓は血液を貯蔵し、必要に応じて放出する働きを担っています。
また、赤血球を作るのに必要な「鉄」および、正常な赤血球を作るのに欠かせない「ビタミンB12」の貯蔵を行います。
古くなった赤血球は脾臓、および肝臓で破壊されます。この際、赤血球の構成成分である「ヘモグロビン」も分解されます。この代謝の過程で「ビリルビン」が肝臓で作り出され、排泄されます。
肝臓の機能を理解した上で、肝臓の数値を知ろう
肝臓の基本的な機能を知った上で、肝臓の数値を見ることが大切です。
動物病院で行われる血液検査では肝臓・胆道について知る数値として以下の項目が挙げられます。
酵素関連
肝細胞が様々な代謝活動を行う際、欠かせないのが「酵素」の働きです。肝炎などの病気が原因で、肝細胞が破壊されると血液中に肝細胞内の「酵素」が漏れ出てきます。
そのため、血液中の酵素の量を調べることで肝臓の状態を知る手がかりにすることができます。
「肝臓の数値が上がった」という場合、多くはこの酵素関連の数字の上昇を指します。
- AST(GOT)
- ALT(GPT)
- ALP
- LDH
- γ-GTP
たんぱく質関連
肝臓はたんぱく質の代謝にも大きく関わってきます。そのため血液中のたんぱく質量、たんぱく質の代謝の結果生じた物質の量を計測することで、肝臓の異常を捉えることができます。
- 総蛋白
- BUN
- ビリルビン
脂質関連
脂質関連の数値も肝臓の健康状態を知るのに役立ちます。
- コレステロール
- 中性脂肪
肝臓の数値は犬の病気で向き合う機会が多い
肝臓の数値の異常は血液検査で指摘される場合が多いです。
その際、動揺するのではなく「肝臓の働き」はどういうものか、数値の異常は肝臓のどんな状態を表しているのか?について正しく理解することが大切です。
そのためにも、普段から犬の体の基礎知識、血液検査の意味するところを知っておくのが大切です。