犬の管理栄養士アドバンス:諸橋直子です。
先日のことですが、我が家の下痢気味8歳の犬のために、ヨーグルトを買ってきて食べさせました。
下痢のときは、食べられる場合は消化の良いもの、水分は十分に、が我が家の基本です。
ところで犬の健康トラブルで「下痢」は頻度の高いものです。
「ペットの保険金請求が多い傷病のランキング2020」によると、「下痢」は保険金請求が多い傷病ランキング4位に入っています。
ペットの保険金請求が多い傷病のランキング2020
https://www.ipet-ins.com/info/24986/
これは保険請求のあった金額のみのランキングですが病院に行くほどではない下痢で、自然治癒したものを考え合わせると実際に、犬の下痢は頻繁に起こりがちなトラブルとも言えるでしょう。
というわけで、今回のテーマは「下痢のとき、犬の食事どうしてますか?」
胃腸の調子が悪いときに適した食品・適さない食品
下痢などの胃腸トラブル時の食事は
- 脂肪分が少ない
- 食物繊維も少ない
- 柔らかめの食事
が適しています。
以下に、例を挙げます:
【胃腸のトラブル時におすすめの食品】
- お粥
- うどん
- 白身魚(タラ、かれいなど)
- ささみ
- 皮をのぞいた鶏むね肉
- 卵
- ヨーグルト
- じゃがいも
- りんご
- バナナ
これをみて、「あ、確かにお腹にやさしそうな食材だな」と感じた方もいると思います。
「胃腸トラブルの際、適さない食品」は、これらの逆をいくと、イメージできます。
つまり、
- 脂肪分が多く
- 消化のしにくい
- 材料も大きく、硬い食事
となります。
消化の良いものを、どう定義する?
うどん、ささみ、お粥、といった「胃腸のトラブル時におすすめの食品リスト」を見て
「うんうん、たしかに消化が良さそうだ」
と納得された方も多いと思います。
ところで「消化が良い」とは具体的にどういうことを指すのでしょうか?
これを「食物の胃での滞在時間」という視点で考えてみようと思います。
以下は、代表的な栄養素の胃での滞在時間(ヒトの場合)を示したものです。
- 炭水化物(ごはん、おかゆ、パン、うどんなど):2~3時間
- タンパク質(卵、魚、肉など):4~5時間
- 脂質(肉の脂身、バターなど):7~8時間
見ていただくと分かる通り、胃での滞在時間が最も長いのが「脂質」です。
犬の場合の滞在時間は上記とは異なりますが、脂質の滞在時間が長い点は共通です。
脂っこいものを食べるとよく「胃がもたれる」ことがあります。実際に、脂質は胃での滞在時間が長いため、いつまでも帰らないお客さんが長期滞在しているような状態になります。
これがいわゆる「胃もたれ」です。
健康なときは良いとして、胃腸の調子が悪いときに、油っこいものを避けた方が良い、という意味がこれでおわかりいただけるかと思います。
このことから、「消化が良い食べ物」の定義のひとつとして
胃での滞在時間が短く、もたれにくい
を挙げることができるでしょう。
では、こうした事実を踏まえた上で「手作りごはん」の場合、下痢にどう対応するか?を具体例をあげてご紹介しようと思います。
少し様子を見たいとき「淡白なヨーグルト+りんご」
我が家の事例となりますが、先日、8歳の犬の下痢は、激しい上に血便でした。そこで動物病院を受診したところ「犬の血便は人間と比べると、よくあること」との診断でした。
しかも、犬本人は至って元気です。食欲も普通。いつもどおりに食べたがります。
そこで、整腸剤を飲みながら、食事を消化の良いものにし、量も通常の8割程度にして様子を見ようという話になりました。
そこで登場したのが「ヨーグルト」です。
今は元気でも、下痢とセットであとから嘔吐が来る可能性ゼロではありません。そのため、まずは軽めのもので様子を見ることにした次第です。
結論を言うと、その日1日は、下痢も嘔吐も観察されませんでした。おかげで翌日には食事を「卵おじや」に変えることができました。
そんなわけで、下痢のときは
「ヨーグルト」
は、おすすめです。
そこに小さめにカットしたりんごを添えても良いですね。
我が家では、はちみつをプラスすることもあります。
私の住む北海道では、もう室温ではちみつがガチガチの結晶になる季節となりました。
家の近所にある、養蜂家さんの販売所からはちみつを直接購入しているのですが、現在これが、瓶の中ほぼ結晶という状態になっています。
一説によると、「ブドウ糖」の含有量が多いはちみつは結晶しやすいと考えられています。
はちみつが白く固形状になるものとならないものがあるのはなぜですか。また、白くなったものを元に戻すことはできますか。 | 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1611/01.html
この考えでいくと、我が家のはちみつは「ブドウ糖」の含有量が多そうだ、となります。
「ブドウ糖」は即効性の高いエネルギー源として有効です。
下痢で調子が悪い時だからこそ、エネルギーはしっかり摂りたいところ。その点、はちみつはおすすめです。
やわらかく煮た「お粥」も良い
お粥も個人的に、犬におすすめのメニューです。
下痢の時だけでなく、老犬には消化の良い常食として、その他の病気に時にも、柔らかく食べやすい主食として「お粥」をマスターしていただくと、応用範囲が広がります。
お粥は土鍋で炊くとかなりの時間がかかります。
なので、手軽なのは炊飯器の「お粥モード」の利用です。
検索すると、様々なレシピがヒットするので、興味のある方は検索してみてください。
我が家では「圧力鍋」を利用してお粥を炊いています。
加圧時間は12分ほど。もち米とうるち米を、半々にして炊くことが多いです。
さらにもっと手軽なのは、市販のレトルト製品の利用です。米をシンプルに水で炊いただけの「白粥」が市販されています。こうした既製品を利用するのも賢い選択肢の一つと言えるでしょう。
お粥は米をたっぷりの水分で煮てあるので、消化が良いのはもちろん、食べるだけで水分補給にもなります。
下痢のときは、体内の水分が失われがちです。そのため、水分補給は大切です。
米の主な栄養素は糖質ですが、こちらはエネルギー源となります。胃腸の不調時こそ、エネルギーはしっかり摂りたいところです。
お粥をベースに、そこに卵を加えたり、鶏ささみをプラスすることでタンパク質を補えます。柔らかく煮た青菜を添えれば、立派な犬のための療養食のできあがりです。
手作りの食事での対応と、ドライフードの相違点
ここまで犬の「下痢」のときの食事についてご紹介してきました。我が家は、犬たちの食事が手作りごはんであるため、このようなアレンジが効きます。
一方で、「ドライフード」の場合、ぬるま湯でふやかす、というアレンジを行っているが、調子が悪いときは、あまり適していないように感じる、という声も度々寄せられます。
ドライフードは健康な犬を基準に作られています。そのため、犬が好む脂肪分も含みますが、これが、胃腸の調子が悪い場合に、適さないことがあるようです。
これについても、詳細を見ながら検討していくことにします。
「総合栄養食」表記のあるドライフードには、油脂類の最低値保証がある
「???それって、どういう意味??」
と、目が点になる方が多いと思うので、1つ1つ解説していきます。
犬の食事を選ぶ際、参考になるキーワードが2つあるので、個別に見てきましょう。
1:「総合栄養食」
「総合栄養食」とは、このフードと水だけで、該当する動物が健康に生きていける、ということが、規定の成分分析また給餌試験によって、基準値をクリアしたことが保証されるフードであることを指します。
もっと簡単に言うと
「ライフステージは避妊・去勢済の成犬、この犬に関して言うと、このフードと水だけで生きていけます、という栄養が含まれていると保証されたフードがこれです」
というお墨付きがある、ということです。
子犬期、成犬期、授乳期、老犬期など、犬の健康状態を年齢や生活状態によって区切ったものをライフステージとよびます。
このライフステージごとに必要とされる栄養要求量がわかっているので、それを満たしていると保証されたフードのことを「総合栄養食」と呼ぶ次第です。
犬に必要とされる栄養素をすべて満たしていることが「保証された」フードですので、そこには「最低値」が存在します。
この「最低値」が2つめのキーワードです。
2:「最低値」
例えば成犬期のフードの場合:
- 脂質:5.5%以上
- タンパク質:18.0%以上
と、「最低値」が定められています。
出典:AAFCO 栄養基準 (2016) に基づく成分分析一覧表
https://natural-harvest.co.jp/wp-content/uploads/2020/05/aafco_dry.pdf
脂質もタンパク質も、エネルギーになる栄養素であるため、フードにとっては「プラス」です。このプラス要素の成分は、多く入っているほど「良いフード」という評価になります。
そのため、「最低限、○○%以上入っていることを保証」することが、フードの品質を保証することになります。そのため「最低値」と呼ばれます。
脂質はエネルギー源として重要です。また、必須脂肪酸の供給源として、脂溶性ビタミンの体内への運び手としても必要です。細胞膜やホルモンの材料にもなるため、一定量、食事から摂取する必要があります。
同時に犬は動物性の脂肪を好む性質から、一定量の脂質を含むことで、犬の食いつきが良くなる、という利点もあります。
そのため、フード内には通常「最低値」以上の脂質が含まれています。
「最低値」をクリアすることが、総合栄養食を名乗る条件であるため、基準を超えて多く入っていても問題ありません。(むしろ、それがプラスの評価になります)
そのため、製品によって脂質の含まれる量にはばらつきがあります。(推定値で、脂質含有量が15%程度の製品もあります)
さて、脂質は健康な犬にとってはエネルギー源となり、体を作る材料にもなります。
でも胃腸の調子が悪い犬にとってはどうでしょうか?
元気な犬にとっては良いものでも、不調時の犬には負担になります。
ドライフードが「胃腸の不調時」に適さないケースが起こるのは、このためと考えられます。
(もちろん、普段から犬がフードを食べ慣れているため、胃腸の不調時は量を減らす、ぬるま湯でふやかす、という選択もありです。可能な範囲内で対応することが、大切です)
重ねていえば、ドライフードはある意味「完成された食事」ですが、それはあくまで通常時、健康な犬のためのものであることが前提です。
そのため、胃腸の調子が悪いときの食事としては難しい場合もある、ということです。
食事の選択肢を、多く持とう
脂肪分を抑えた、消化器疾患用のフードも存在しますが「食事療法食」に分類されるため、一般のお店での入手は難しい事が多いです。
また、価格も通常の製品と比べると割高です。一時的な下痢のために、こうした「食事療法食」を購入するのはコスト面で適切ではない場合もあります。
これらを考え合わせた上で、どう対応したら良いのか?
犬の体調は、良いときもあれば当然悪い時もあります。なので、状況に応じてうまく対応できるのが望ましいです。
そういう意味で、犬の食事の複数の選択肢を持つことはおすすめです。我が家もドライフード、手作りごはんと犬の食事を状況に応じて選べたおかげで、随分助けられてきました。
選択肢の多さが提供できるものは「安心」です。そのため興味のある方は、
- 手作りごはん
- ドライフード
両方について知り、上手に活用していただければ幸いです。
参考:胃腸の調子が悪い時の食事 | 東京都病院経営本部
https://www.byouin.metro.tokyo.lg.jp/shoukai/eiyou/kaiyou/