この記事では犬の尿検査項目について解説していきます。
犬の尿検査は健康診断のオプションとして、血尿が出た場合、結石症や膀胱炎が疑われる場合などに行われます。
犬の尿検査の結果を理解するためには「腎臓」の働きへの理解が必須です。腎臓の基本的な働きは以下の記事に詳しく書きましたので参考にしてください。
尿検査で何を見るの?
尿検査では腎臓の健康状態、出血の有無、尿結石や細菌感染がないか?などをチェックします。
尿検査で見ること項目の代表は以下の6つです。
尿検査項目:
- 尿比重
- 尿pH
- 尿たんぱく
- 尿糖
- 尿潜血
- 尿沈渣
一つずつ見ていきましょう。
尿比重
尿比重は、尿中の「水」と「水以外」の割合を示したものです。
混じり気のない「水」と比べて、尿の中には様々な「老廃物」が溶け込んでいます。そのため、尿は水と比べて若干「重く」なります。
その重さの程度が、水と比較してどのくらいか?を数値で表したのが「尿比重」です。
「尿比重」を調べることによって、腎機能などの状態を知ることができます。
尿比重の正常範囲
犬の場合、尿比重の正常値の範囲は1.020~1.040とされています。水1ccが1.000gであるのに対し、尿は少し重いことがわかります(水との比較)。
*この数値は検査機関により若干前後する場合があるので、必ずご自身のかかりつけ動物病院の基準値を参考にしてください。
尿比重は変動する
腎臓は体液の濃さを一定に保つ働きをしています。その影響を受けて、尿比重も体の状態によって変動します。
脱水状態の時は尿を濃くする
(体内に水分が足りないので、尿でたくさん出さないように腎臓でコントロールする)
→ 尿比重は高め
水分が過剰な時は、尿を薄くする
(余分な水分を排泄するよう、腎臓が調整する)
→尿比重は薄め
体のコンディションに合わせて尿比重が変動する場合は問題ありません。ただし、腎機能が低下している場合は体の状態に関わらず、尿比重の低い尿(薄い尿)が出る場合があります。
尿比重は「尿量」とセットで判断される数値でもあります。このため、飼い主が犬の飲水量や尿量について把握し、獣医師へ伝えることが重要になります。
手作りごはんの犬の「尿比重」は低め
手作りごはんを食べている犬の尿比重は低めに出る傾向があります。
一般的に尿比重の基準値はドライフードを食べている犬のものです。手作りごはんはドライフードに比べて水分含有量の非常に多い食事です。
そのため、ドライフードを中心に食べている犬と比べて尿は薄くなる傾向にあります。
このことを獣医師に伝えないまま尿検査を受けると、尿比重が低くなり「尿崩症」などの病気を疑われる場合があります。
手作りごはんを食べている犬で、尿検査を受ける場合は、必ず事前に獣医師へ手作りご飯であることを知らせておきましょう。
尿pH
尿pH(ピーエイチ)は尿がアルカリ性か、酸性かを調べる検査です。
犬の尿は通常、中性ですが摂取した食物によっても変動します。
特に手作りごはんの犬の場合、食事内容によって尿pHは変わる場合があります。このことを事前に担当獣医師に相談しておくことが大切です。
pH(ピーエイチ)は0から14までの数字で表す、水溶液の酸性・アルカリ性の指標です。
- 0〜6:酸性
- 6〜8:中性
- 8〜14:アルカリ性
数字が小さいほど酸性度が高く、数字が大きいほどアルカリ性に傾いた水溶液と言えます。
尿がアルカリ性に傾く | ストルバイト結石との関連
ストルバイト結石は犬にとって一般的な膀胱、尿道の結石です。
犬の場合、膀胱、尿道に感染したブドウ球菌などの細菌が作り出す物質が尿をアルカリ性に傾ける原因となります。その結果、結石が形成されるケースが多く見られます。
ただし、細菌感染がない場合でもストルバイト結石は生じる場合があります。
細菌の感染以外でも、植物性の食品を多く摂取した場合は、尿はアルカリ性に傾きます。
尿が酸性に傾く | シュウ酸カルシウム結石との関連
シュウ酸カルシウム結石は、ストルバイト結石の次に犬に一般的な膀胱、尿道の結石です。原因はよくわかっていません。
シュウ酸カルシウムは酸性の環境で結晶化が進みます。
ストルバイト結石にかかった犬の治療の一環として、尿を酸性に傾けてストルバイト結石を溶かす場合があります。こうすることでストルバイト結石は溶けますが、今度はシュウ酸カルシウム結石ができる場合があります。
動物性の食品を多く摂取した場合、尿は酸性に傾きます。
尿たんぱく
尿たんぱくは尿中に排泄されるたんぱく質を調べる検査です。
通常、たんぱく質は腎臓で再吸収され、尿中にごくわずかにしか排泄されません。
腎臓に異常があると、この機能がうまく働かず尿中にたんぱく質が漏れ出ることがあります。
尿にたんぱく質が漏れ出る原因は、腎臓の病気だけではなく激しい運動をした後でも起こる場合があります(運動性タンパク尿)。
尿糖
尿糖は尿中に排泄される糖を指します。糖には様々な種類がありますが、糖のほとんどを占めるのはブドウ糖です。
ブドウ糖は健康な犬の場合も、ごく微量に尿に出てくる場合がありますが、通常エネルギーとなるブドウ糖は腎臓でほぼ100%吸収されます。
しかし腎機能が低下すると尿中のブドウ糖の量が増えます。
尿中にブドウ糖が出現する疾患でよく知られるのが糖尿病です。他の病気でも尿糖が陽性になる場合があります。
尿潜血
尿潜血(にょうせんけつ)は尿中に存在する赤血球、ヘモグロビン、ミオグロビンを検出する検査です。
明らかに尿の赤い「血尿」とは別に、肉眼ではわからない微量の赤血球などが含まれる血尿を識別するために行われる検査です。
腎臓や尿管、膀胱に異常があると、尿中に赤血球が混じり陽性となります。
このため、慢性腎炎、腎臓、尿路などの腫瘍、結石症発見の目的で検査が実施されます。
尿沈渣
尿沈渣(にょうちんさ)は尿を顕微鏡で観察し赤血球、白血球、上皮細胞、円柱、結晶などを調べる検査です。
- 赤血球:結石症が原因で出現することが多い。
- 白血球:膿尿、白血球円柱は尿路の感染、炎症で見られる場合が多い。
- 円柱:円柱の出現は腎障害の可能性を示唆する。
適切な検査結果を得るために | 採尿時の注意点
犬の尿検査の際、尿は飼い主が採取します。正確な検査結果を得るために、採尿時の注意点をお話しします。
- 尿採取後、1時間以内の新鮮な尿を検査に提出する
- 尿を光に当てない(光によって分解する成分も含まれる場合があります)
- 清潔な尿を採取する
特に3つ目は難しいですが、一度清潔な紙コップにとった尿を提出用のプラスチック容器に移すなどの工夫で対応できます。
上記の3つの事項が守られていないと、雑菌の混入、時間の経過による成分の変質などで正確な検査結果が得られない場合があります。
心配な場合は尿検査を受ける際、動物病院に採尿のアドバイスを求めましょう。