「犬の病気治療にも漢方薬が使えるって本当?」
犬の漢方薬治療に興味を持ったばかりの漢方薬初心者向けにこの記事では「漢方薬とは何か?」を解説します。
犬の漢方薬治療の初歩的な知識については「犬に漢方薬治療は可能? | 犬と漢方薬」で解説していますので、犬の漢方薬について初めて学ぶ方は、そちらも合わせて参考にしてください。
漢方薬とは?
漢方薬とは「生薬」と呼ばれる薬剤をベースに、複数を組み合わせて作ったブレンドである「漢方方剤」のことを指します。
生薬には以下のものがあります。
- 植物(生姜・ナツメ・葛根など)
- 動物(ボレイ:カキの殻)
- 鉱物(石膏など)
植物由来の生薬は数多くあります。
私たちの食事でもおなじみの生姜(しょうきょう)、解熱作用のある葛根(クズの根)、シナモンとしておなじみの桂皮(けいひ)などがそれに当たります。
動物由来の生薬もあります。
牡蠣(ボレイ)は牡蠣の貝殻を指しますが、これも生薬になります。制酸作用があり胃酸過多などの胃腸薬に配合されます。
鉱物由来の生薬には石膏があります。「え?石膏が薬になるの?」と驚く方も多いと思いますが、石膏は「熱」を冷ます生薬として用いられます。
口の渇きやほてりを鎮めるほか、むくみ、かゆみがある場合にも用いられます。
漢方薬は「生薬」の複合ブレンド
漢方薬(漢方方剤)は基本的に、複数の生薬を、症状や患者の体質、体調に合わせて適切な比率でブレンドしたものです。
例えば、犬の皮膚のかゆみに用いられる方剤に「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」があります。
これは「黄芩(おうごん)」「黄連(おうれん)」「山梔子(さんしし)」「黄檗(おうばく)」と言う4種類の生薬が配合されたものです。
黄芩(おうごん)
炎症を鎮め、水分代謝の改善作用があると考えられている生薬。解毒作用。胃の不快感、下痢の改善。
黄連(おうれん)
炎症を鎮め、水分代謝改善の働きがあるとされる生薬。精神不安の鎮静作用。解毒作用。腹痛、下痢、嘔吐の改善。
山梔子(さんしし)
炎症を鎮め、精神を安定させる働きがあるとされています。解毒作用。
黄檗(おうばく)
炎症を鎮め、解毒作用、健胃作用があるとされています。
この4つの生薬は「炎症を鎮める」「解毒作用を持つ」と言う点で共通しています。
一方で相違点もあります。
黄芩、黄連はとても似た作用を持つ生薬ですが、黄連は「精神不安を鎮静させる働き」を持つことが特徴です。
こうした4つの複数の生薬を組み合わせることで「黄連解毒湯」は「ストレスで悪化しやすい、かゆみの強い皮膚の炎症・熱感・発赤(はっせき)」の治療薬として用いられます。
漢方薬は「複数の成分」が「複合的」に体に働きかける
漢方製剤のブレンドは、長い歴史の中で経験的に「この比率で配合するのがベスト」と言う最大公約数的解に基づいて作られています。
漢方方剤の起源は諸説ありますが、感染症のための漢方方剤を記した「傷寒論」と言う書物は、紀元150年頃の中国・後漢の官僚「張仲景」が書いたものとされています。
漢方方剤のブレンドはこの頃から現代に至るまで2,000年近い歴史を持ち、その中で繰り返し改善・改良を加えられ洗練され、完成された形で現代で用いられています。
原材料となる生薬は、すでに述べたように天然由来の植物・鉱物・動物由来です。そのため複数の異なる成分を多数含んでいます。
西洋薬の多くが、単一成分で構成され、抗生物質のように特定の標的に特異的に作用するのと比較すると、これは大きな違いです。
西洋薬はターゲットに的確に作用し、病気の治療に役立ちます。漢方薬は複雑な作用を持ち、体に複雑な働きかけをします。
漢方薬の形状による種類
それでは実際に「漢方薬」を犬に飲ませる場合、どのような形状があるのでしょうか?
漢方薬の形状:
- 煎じ薬
- エキス剤
- 錠剤
煎じ薬は、飲むたびに生薬を土鍋などで煮出し、その「煎じ汁」を飲むスタイルです。
この方法は時間もかかる上、煎じ汁の量も多く飲むのが大変です。また煎じている時に漢方薬独特の匂いが出るため、住宅内で行うことが難しい場合があります。
エキス剤は「煎じ汁」を乾燥させ、顆粒状、粉末状にしたものです。エキス剤は使い勝手が良い薬ですが、独特の匂いを嫌う犬もいます。
犬の好物に混ぜる、クッキーなどに練りこんでおやつとして与えるといった工夫が必要です。
最近注目されているのは「錠剤」です。錠剤は匂いが最も少なく、表面がコーティングされているものもあり、飲みやすさに工夫がされています。
犬によって錠剤の方が飲みやすい、粉薬の方が与えやすいといった違いがあります。犬に合わせて、漢方薬を飲ませるスタイルも選べるとより投薬がスムーズです。