「犬の湿疹やアトピー性皮膚炎に漢方薬は使えないの?」
今回の記事では、そんな漢方薬初心者向けに「漢方での皮膚炎の考え方」「湿疹・皮膚炎によく用いられる漢方方剤」について解説していきます。
漢方的な湿疹・皮膚炎の考え方
漢方では湿疹・皮膚炎を「体力」「体質」「全身の状態」によって分類し、使用する方剤を決定します。
分類は以下の通りです。
虚証
虚証は体力がなく、病気に対する抵抗力や反応が弱い状態を指します。そのため、病気になってもあまり激しい症状が現れにくいとされています。
体が「虚」の状態に傾いている際の皮膚トラブルは、症状の出方が控えめです。
- 皮膚が乾燥し、かゆみがあるが分泌物は少ない状態(特に老犬)
- 皮膚が乾燥し、疲れやすい状態
実証
実証は体力があり、体が病気に対する抵抗力を持った状態を指します。そのため病気になった際の反応も激しく起こりやすいとされています。
体が「実」の状態に傾いている際の皮膚トラブルは、症状も激しく出やすいです。
- 熱感がある
- 強いかゆみ
- 皮膚に赤みがある
- 口の渇きを訴える
虚実間証
体力が中程度で、虚と実のどちらにも属さないタイプを「虚実間証」と呼びます。
- 化膿が繰り返し起こる
- 分泌物が多く、患部に熱感があり、かさぶた、かゆみがある。
夏に症状が悪化しやすい - 皮膚が浅黒く、乾燥し、熱感とかゆみがある
まず「証」をチェックしよう
犬の皮膚疾患のための漢方方剤を選ぶ際に大切なのは、まず「証」をチェックすることです。
- 比較的体力があり、体つきもがっしりしている→ 実証
- 体力があまりなく、疲れやすい。体つきは華奢である→ 虚証
- 上記のいずれでもない→ 中間証
証が違えば、症状も変わります。それによって適した漢方方剤も変わってきます。犬のための漢方方剤選びは「証」を合わせることからスタートします。
虚証のための漢方方剤
小建中湯(しょうけんちゅうとう)
虚弱体質で疲れやすく、湿疹、皮膚疾患のある犬の場合の方剤です。
小建中湯は「胃腸を立て直す」薬です。体質的に食欲がなく、体力もあまりない「気虚タイプ」の犬の皮膚トラブルに適しています。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
虚弱体質の犬の慢性湿疹、かゆみに。特に寒がりで暖かい場所を好み、皮膚にじくじくやカサカサを伴う場合に適しています。
十全大補湯は「気虚」「血虚」タイプに適した方剤です。全身が弱っていて、食欲もなく倦怠感が強い対応に適しています。血行を促し、滋養強壮作用のある生薬10種が配合されています。気力・体力を補う「補剤」の一つです。
実証のための漢方方剤
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
比較的体力のある犬の皮膚炎、皮膚のかゆみ、発疹に用いられます。イライラすると悪化しやすいかゆみの改善にも適しています。
体力がない犬が使用すると下痢などの副作用が起こる場合があります。
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)
漢方医学では、体に熱がこもってしまうとかゆみや熱の原因になると考えます。白虎加人参湯には石膏が含まれており、主成分は硫酸カルシウムです。この成分に喉の渇き、熱を冷ます効果があると考えられています。
そのため、アトピー性皮膚炎、熱感や赤みのあるタイプの皮膚炎に用いられます。比較的体力のある犬に適した方剤です。
虚実間証のための漢方方剤
十味排毒湯(じゅうみはいどくとう)
皮膚疾患の初期、湿疹、じんましん、アレルギー性疾患に用いられます。化膿を伴う皮膚病に適した方剤です。特に分泌物の少ない場合に適しています。
中程度の体力の犬に向いた方剤です。皮膚トラブルの中でも病気の初期に多く用いられます。
温清飲(うんせいいん)
強いかゆみでイライラしている、冷たい場所に体をつけたり、涼しい場所にいることを好む犬に適しています。熱感のあるかゆみ、慢性化したかゆみに。
消風散(しょうふうさん)
長期化する湿疹でかゆみが強く、分泌物が多い、患部に熱感があり、夏に症状が悪化するタイプに用いられます。
胃腸が弱い犬の場合、下痢が起こる場合がるので注意が必要です。
皮膚疾患で漢方薬を上手に利用するためのポイント
はじめに動物病院で、西洋医学的な診断をしっかりしてもらうことが大切です。診断をつけてもらってから漢方薬利用を開始してください。
その理由について解説します。
例えば、皮膚が細菌によって可能し、ベタベタ、ジュクジュクする場合は薬を使った西洋医学的な治療は即効性があり、効果的です。
かゆみが強い場合はステロイド薬による治療も大変有効です。副作用を嫌い、使用を拒む飼い主さんもいますが、犬にとって長く続く強いかゆみはそれだけで大きなストレスとなります。
ステロイド外用薬は、必要な量を適切な期間、しっかり使用する事で炎症を抑え傷ついた皮膚が新しく再生する助けとなります。獣医師の指示に従い、正しく使用するのがベストです。
こうした治療と併用で、漢方薬を利用する事が大切です。漢方薬のみでは、治療期間が長引くケースもあります。
西洋薬、漢方薬、それぞれの特性を理解した上で併用するのがおすすめです。
西洋医学、漢方医学の特徴について詳しく知りたい方は「犬に漢方薬治療は可能? | 犬と漢方薬」も併せて参考にしてください。