「シニア期の犬の手作りごはん、何か特別なことをしないとダメでしょうか?」
「何か特別に追加した方が良い栄養はありますか?」
犬がシニア期に入ったのでそれに合わせて食事を変えた方がいいのか?という疑問に回答していきます。
まずは犬のシニア期を知ろう
シニア期の食事を考える上で大切なのは、まず犬のシニア期とは?を正しく理解することです。シニア期に起こる体の変化についてまず知り、それに合わせて対策を考えることが大事です。
犬のシニア期といっても「シニア初期」「シニア後期」では状態が全く違います。これは人間の50代と70代では体力も体の衰えの状態も違うのと同じです。
同じ年齢の犬でも老化の程度には個体差があります。同じ70代でも元気にジョギングをしている人もいれば、歩行に杖が必要になる人もいます。
犬も同じで、老化の程度には個体差が大きいです。このことをよく理解し、その犬に合わせた老化ケアを行う必要があります。まずはあなたの愛犬の老化の程度を把握しましょう。
そもそも、シニア期とは?
まずは犬のシニア期の定義から。
犬のシニア期は犬種によって若干異なります。一般的には7歳前後がシニア期の始まりと言われます。
体の変化
- お尻の筋肉が落ちて四角く見えるようになる
- 白髪が目立つ
- いぼができる
- 体型が変わる(太る場合と痩せる場合がある)
- フケが出やすくなる
- 口臭がきつくなる
シニア期に入ると筋肉が落ちやすくなります。これは食事から摂取したタンパク質を体内で利用する効率が落ちるためとも考えられます。
基礎代謝が落ちてこれまでと同じ量の食事でも太る犬もいれば、消化機能が低下し痩せる犬もいます。
いぼなどの腫瘍ができる割合も増え、歯周病による口臭が強くなる犬もいます。
行動の変化
- 歩幅が小さくなってくる(足腰の筋肉の衰え)
- 呼びかけに反応しない(聴力低下)
- 物にぶつかる(視力低下)
- 息切れ(循環器の不調)
- トイレの失敗が増える
- 遊びに無関心になる
筋肉の衰え、視力、聴力など感覚器の老化により様々な変化が出てきます。
また若い頃には症状として出てはいなかったが、ゆっくりと進行していた病気が表に出てくるのもシニア期です。
代表的なのは心臓病です。先天性の循環器の疾患を若さでカバーしながら日常生活を送っていたので、老化とともに病気が進行し、症状が現れてきます。
シニア期は病気が多くなる時期でもあるので、定期的な動物病院の受診で常に体の状態をチェックしておくことが大切です。
シニア期における、食事に影響する変化
飲み込む力(嚥下力)低下 | 老化に伴い、喉の筋力が低下する。誤嚥リスクが高まる。 |
嗅覚の低下 | 匂いを感じる感覚が鈍くなる。犬の食欲は嗅覚に左右されるため、食欲が落ちる場合がある。 |
消化液の減少 | 消化液の分泌量が減る場合がある。ただし、全く減らない犬もいるため個体差がある。 |
唾液量の減少 | 唾液の分泌量が減り、ものが飲み込みにくくなる場合がある。口臭、歯周病の原因にもなる。 |
噛む力(咀嚼力)の低下 | 噛む力が低下すると、噛むのが億劫になり食事に興味がなくなる場合も。食事を柔らかくする工夫を。 |
1.嚥下力の低下
飲み込む力が低下すると食事の際、むせやすくなります。
私たちや犬の「喉」には、空気の通り道である「気管」への入り口と、食べ物の通り道である「食道」が存在します。
通常、気管は開いていますが、食べ物を飲み込む時に無意識に閉じられる仕組みになっています。
老化により喉の筋肉が衰えるなどの原因により、食べ物が通る際に、気管への入り口が閉じるタイミングがずれることがあります。そうすることで食べ物や飲み物が誤って気管に入ると「むせ(咳き込み)」が起こります。
誤嚥性肺炎
本来は入ってこない食べ物や水分が気管に入るこむことで、それらに付着していた細菌が肺にまで入り込み、炎症を起こす場合があります。これを誤嚥性肺炎と呼びます。
特にサラサラとした「水」は喉を通過するスピードが早く、気管が閉じるタイミングにズレが生じやすく、老犬にとってはむせる原因となります。
スープご飯など、サラサラした食事は「片栗粉」で「とろみ」をつけることで食べやすくなります。
犬が食事の際、むせることが多くなってきたら「とろみ」を加えた食事への切り替えを検討しましょう。
2.嗅覚の低下
犬は嗅覚が特に優れた生き物です。特に食事面においては「匂い」が食欲を左右する重要な要素になります。
そのため、老化により嗅覚が鈍ることで食欲が湧かず、食事に興味を失う場合があります。
調理法や食材の選び方の工夫で、犬の嗅覚を刺激することができます。茹でるから焼く、に調理法を変えることで、食材の香ばしい匂いを引き出し、犬の食欲をそそることができます。
ごま油など、元々香りが良いもの、香りが立ちやすい食材を選ぶことも犬の嗅覚を刺激します。いりごまを、食事の直前に擦って加えるのも効果的です。
3.消化液の減少
老犬になると消化液の分泌量が減り、食欲が低下する場合があります。その一方で、死亡直前まで犬の消化能力は衰えないというデータもあります。
これには個体差があります。
消化液の分泌が減り、消化吸収力が低下すると下痢や消化不良を起こしやすくなります。この場合は消化しやすい調理法や食材を工夫しましょう。
おかゆや煮込みうどんなど、水分たっぷりで柔らかく煮込んだメニューがおすすめです。
消化しやすい食材:
肉は脂身の少ない部位のひき肉、白身魚、卵とじやひきわり納豆、ヨーグルト、繊維質の少ない野菜(白菜など)、イモ類もおすすめです。
4.唾液量の減少
唾液の分泌量が少なくなると、食べ物を飲み込みにくくなります。また、口の中が乾燥しやすくなり、口臭、歯周病の原因にもなります。
食事には口腔内の健康も大切な要素です。シニア期には特に、犬の歯のケアをしっかり行うようにしましょう。
5.噛む力の低下
犬は元々あまり咀嚼をしない生き物です。大きめの塊の肉などを犬歯で引きちぎり丸呑みするのが基本ですが、野菜や穀類などはある程度、奥歯ですりつぶして食べます。
噛む力が弱ってきた犬には、材料を小さく刻む、柔らかく煮込むなどの工夫が大切ですが、むやみに柔らかくするだけでは犬の「噛む楽しみ」そのものを奪ってしまうことになります。
犬の様子を見ながら、調理に一工夫を加えるのがおすすめです。
野菜や肉は繊維を断ち切るようにカットする、麺類などは短くカットすることで、老犬にも食べやすくなります。
よくある疑問 | シニア期に入ったら、食事はフードプロセッサーで砕いた方が良い?
「老犬の食事は、消化がいいように全部フードプロセッサーなどで細かくした方がいいですか?」
「全部煮込んで柔らかくした方がいいのでしょうか?」
このように心配される方も多いですが、犬が元気で歯も健康を保っているのであれば、それまでの食事を大幅に変える必要はありません。
歯や顎の力が弱って、噛み砕くことができない場合や、喉の筋肉が衰え流動食に変える必要がある場合は別ですが、そうでない場合は通常の調理法で問題ありません。
犬にとっては適度な噛みごたえのある食材を食べて食感を味わうことも食事の楽しみのひとつです。
食事内容は工夫が必要 | 栄養学的視点
シニア期に入ると体でのアミノ酸利用効率が落ちます。
これは成犬期と比べると、同じ量だけタンパク質を摂取しても体内で自分のタンパク質として利用できる率が下がるということ。
タンパク質は脂肪と違い、基本的に余った分を体内に貯めておくことができません。そのため、タンパク質の利用効率が下がると筋肉が痩せてくる、という形で減っていきます。
そのため、シニア犬の食事には質の良いタンパク源を意識して選ぶ必要があります。
質の良いタンパク源とは、犬の必須アミノ酸をバランスよく含むものを指します。犬の必須アミノ酸は10種類あります。
- アルギニン
- ヒスチジン
- イソロイシン
- バリン
- ロイシン
- メチオニン
- スレオニン
- リジン
- トリプトファン
- フェニルアラニン
必須アミノ酸をバランスよく摂取したい場合は肉・魚・大豆製品を食べるのがおすすめです。
まとめ
年齢的にシニア期に入っても、犬の体の状態は様々。元気な犬の場合、歳だからといって急に食事を変える必要はありません。衰えが見え始めた犬の場合は、状態に合わせて対応しましょう。
これまでの食事を続けながら、体重の変化や筋力の衰え、食事の食べやすさに注意して犬に合わせて対応することが大切です。